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交換日誌

こちらは(株)トミーウォーカー運営のTW4サイキックハーツのPC越前・勇也(d01673)、茉莉・春華(d10266)、三田村・太陽(d19880)、鳥居・薫(d27244)のなりきりブログです。

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【SS:薫】静かな聖夜

2014年12月24日

鳥居家にて。







 ふわふわと地に付けばすぐ溶けてなくなってしまうようなはかない雪が降る聖夜。賑やかだったアパートの一室は今は静まり返り、部屋の主である少年がかちゃかちゃと食器を片づける音だけが聞こえる。

 ―――……きよし この夜――♪

 否、その少年の背を向けられたふすまの向こうから優しい歌声がかすかに聞こえてくる。
 その歌声に耳を澄まし、水気を拭き取り終わった食器を棚にしまって少年――鳥居薫は目を閉じて静かに聞き入る。
 ふすまの向こうにはきっとすでに布団に入って寝入っている薫の妹と、きっと彼女に子守歌として歌っているのであろう、薫の交際中の彼女――奏森雨がいる。
 物心ついたころから音楽の英才教育を受けていたと聞いただけあって、彼女の歌声は美しかった。磨き上げられた歌声は特に信仰心のない薫にさえも神聖さのようなものが感じられて、まさにこの聖夜に相応しい清らかな歌声だった。

(雨を誘ってよかった)

 薫はそう思いながら一人微笑みを浮かべた。


 毎年、鳥居家ではクリスマスイブを家族で過ごしていた。しかし、今年薫は雨を家に誘ったのだ。
 理由は2つ。1つは雨によく懐いている薫の妹が彼女と一緒にクリスマスをしたいとねだったから。もう1つは単純に薫自身も雨と一緒に過ごしたかったからだ。
 そして、雨はその誘いに二つ返事で快諾して今日この日を共に過ごした。
 家へとやってきた雨に、薫の妹は大はしゃぎだった。兄とお揃いで送られたクリスマスプレゼントのエプロンにはそれはもう大喜びしては「これでおにいちゃんをおてつだいするの!」と張り切りだしたくらいだ。
 パーティ中も、彼氏である薫を差し置いて彼の妹は雨にべったりと甘えていた。その様子に薫も少しばかり嫉妬を覚えるも、それに楽しそうな雨の笑顔を見て、彼女が楽しいならいいかと笑みを漏らしていた。
 しかし、幼い子供がそれだけはしゃげば眠気が来るのも早いもので。
 宵の入り頃には薫の妹もはしゃぎ疲れ、うとうとと舟をこぎ始めた。もう寝なさいと妹を寝かしつけようとする兄にいやいやと寝ぼけながらも雨にしがみつく彼女を代わりに寝かしつけようかと言いだしたのは雨の方だった。
 こちらから招待したのに妹の世話まで甘えるのは申し訳ないと思いながらも、しかしてこでも動かぬ妹に小さくため息を吐き、それじゃあと薫は雨に妹を託した。


 そして、今に至る。
 食器を片付け終えてこたつに入って休んでいると、ふすまからの歌声が止み、少しの間を置いて静かにふすまが開かれた。

「薫君、後片付けお疲れ様。夢ちゃん眠ったよ」
「ありがとな、雨。助かったよ」

 ふすまから覗きこんで声をかける雨に笑いかける薫。閉められるふすまの隙間から布団に入ってぐっすり眠る黒髪の少女――薫の妹である夢がちらりと見えた。
 幼い彼女の元気な声が無くなった六畳一間は静かで、しかし穏やかな空気が流れていた。

「薫君、今日はお誘いありがとう。すごく楽しかったよ」
「こちらこそ、来てくれてありがとな。なんか、せっかく誘ったのに半分くらい夢の世話を任せたみたいになっちゃったけど」

 ごめんな、と苦笑する薫にしかし雨はううんと首を横に振る。

「クリスマス、こんな風に楽しく過ごせるなんてお屋敷にいた時は思ってなかったから、薫君と夢ちゃんと一緒にいれて……すごく、嬉しい」
「そっか……よかった」

 はにかんで笑う薫に、雨も微笑みを返す。
 物心ついた時には淫魔の屋敷に閉じ込められていたという話を、以前薫は雨から聞いていた。だから、こんな賑やかなクリスマスはきっと生まれて初めてだったんだろうなと薫は密かに思った。
 2人は夢を保育園から迎えに行く時間まで、学園で行われたアドリブ劇でリア充爆破な周りの空気を無視していちゃいちゃしたり、クリスマスイブにのみ現れるという伝説のナノナノさまを探すために歩き回ったりと一緒に行動していた。
 しかし、学園にいた間はいつも周りにほかに人がいたため、こうやって2人で静かに過ごすのは、今日はこれが初めてだった。
 賑やかな中で一緒に楽しい時間を過ごすのも好きだけど、2人でゆったりと穏やかな時間を共有するのも

(―――幸せ、だなぁ。なんだか)

 雨と他愛のない話をしながら、薫は胸中で呟いた。
 一緒にこたつでぬくまりながら、隣で笑う雨を見ている薫の胸に彼女を愛おしいと思う気持ちが膨れ上がっていく。

(もっと近くにいたい、触れていたい)

 ふと、薫の手が雨の片手に重ねられる。雨はそれに少し驚いた様子だったが、小さく笑い返すとその手を軽く握り返す。それだけで薫の心は幸福であふれかえっていく。
 だが、薫の、若い少年の欲はそれだけで止められはしなかった。
 もっと距離を縮めたい、もっと雨に触れたい。

「なぁ、雨」

 無意識に肩を寄せ、顔の距離を縮めていく。

「キス、してもいいか?」

 気が付けば、鼻先が触れ合いそうな距離だった。

「…えっ?」
「――あ」

 突然の問いに驚く雨と我に返る薫。顔が赤くなるのはほぼ同時だった。

(な、に、言ってんだオレは…っ!!)

 思わず口に出た自分の爆弾発言に動揺して何か言い訳をと口を開こうとするが、それが声になることはなかった。
 薫がなにか言おうとする前に雨は真っ赤な顔で頷いたからだ。
 本当にいいのか?と問い返す代わりに瞳を覗き込む薫に、雨は赤いまま笑みで答える。

(かわいい…って言ったら、怒るかな?)

 雨の瞳に映るのは真っ赤になって不安げに見つめてくる彼女のいちばんだいすきな人。彼を見て笑みを浮かべる雨はそっと瞳を閉じた。
 彼女の胸中まで察しはしない――そもそも、そんな余裕などあるはずもない薫は息を呑み、そっと雨へと顔を寄せていく。
 時間にしてみれば1分にも満たない時間。でも胸を高鳴らせる2人にはとても長く感じられたほどにゆっくりと顔が近づいていき―――

 ―――瞬間、柔らかな感触が触れ合った。

 重ねるだけのほんの一瞬だけのキス。でも、その瞬間2人の距離は初めてゼロになった。
 すぐに顔が離れ、目を開いた2人は照れ臭そうに笑いあった。

「好きだよ、雨」
「うん、私も。薫君が好き」

 眠る妹を起こさないように声を抑えて笑いあい、若い恋人同士は静かに穏やかに初めての聖夜を過ごした。
 焼けそうなほどに暖かい熱を胸に宿して。





(*雨PL様より許可を戴いて掲載しています。お待たせしてすみません……っ!)
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